| 前口上 | 目次 | 第1章 | 第2章 | 第3章 | 第4章 | 第5章 | 第6章 | 第7章 | 第8章 | 第9章 | 第10章 |
| 第11章 | 第12章 | 第13章 | 第14章 | 第15章 | 第16章 | 第17章 | 第18章 | 第19章 | 第20章 | 付録 |
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
第3節で説明したように、生存率を左右するのはハザードです。 そこでハザードを目的変数にし、それに影響を与える因子を説明変数にして重回帰分析を行えば、それらの因子が生存率に与える影響を解析することができます。 それが第6節で説明するパラメトリック生命表解析です。
しかしパラメトリック生命表解析ではハザード関数λ(t)の具体的な姿を規定する必要があります。 そしてλ(t)の具体的な姿は、当然のことながら科学的に合理的なものでなければなりません。 ところが統計学者はλ(t)が数学的に合理的かどうかは判断できても、科学的に合理的かどうかは判断できません。 そこでλ(t)をブラックボックスにしたまま多変量生命表解析を行う、手品のようなノンパラメトリック手法を考案しました。
その手法では、まずロジスティック回帰分析と同じように、次のようなリンク関数を用いた重回帰型モデルを想定します。 (→10.1 ロジスティック回帰分析の原理 (3)一般化線形モデル)
基準ハザード関数(baseline hazard function)λ0(t)は全ての共変数の値が 0 の時のハザード関数であり、ハザード関数λ(t|x1,…,xp)はどれか1つ以上の共変数の値が0ではない時のハザード関数です。 そしてこの重回帰型モデルは、ハザード関数λ(t|x1,…,xp)と基準ハザード関数λ0(t)の比を対数変換した値つまり対数ハザード比ηと共変数の間に近似的な線形関係があると仮定したモデルです。 ハザード比を対数変換するのは共変数との関係をより線形に近づけるためです。
さらにこのモデルに「共変数はハザード関数の形には影響を与えず、値だけに影響を与える」という仮定を置きます。 これは図11.3.1でいえば、共変数はλ(t)のグラフを単に上下に平行移動させるだけであり、しかもその移動比を対数変換した値は共変数の値に比例するという、現実にはほとんど有り得ない無茶な仮定です。 これが手品のタネであり、この無茶な仮定を置くことによって、λ(t)をブラックボックスにしたまま重回帰モデルの解を近似的に求めることができるようになります。
このモデルを比例ハザードモデル(proportional hazard model)といい、このモデルに基づいた多変量生命表解析のことをコックス(Cox)の比例ハザードモデルによる重回帰型生命表解析といいます。 この手法は、数学的には第2節で説明したコックス・マンテル検定を多変量に拡張した手法に相当します。 そしてこのモデルは、正確には共変数の値と対数ハザード比が比例する比例対数ハザード比性の仮定を置いています。 しかしコックス・マンテル検定における比例ハザード性に倣って、普通は比例ハザードモデルと呼びます。 比例ハザード性については第7節で詳しく説明します。
この手法はハザード関数λ(t)の具体的な姿を規定しないので、ハザードに対する共変数の影響を近似的に検討するには便利です。 その代わりハザード関数λ(t)の具体的な姿を規定しないので、生存関数S(t)の具体的な姿は規定できません。 そのため共変数の値がわかっている被験者がいても、時点tにおけるその被験者の生存確率を予測できず、被験者の予後を予測できません。
ただし共変数の値が全て 0 である仮想的な被験者に対する、その被験者のハザード比は求められます。 したがって色々な共変数の値を持つ多くの被験者がいた時、それらの被験者が死亡する順序だけは予測できます。 そのためこの手法は生存時間ではなく死亡順序に関するノンパラメトリックな生命表解析になります。
また生存関数S(t)の具体的な姿を規定できないということは、このモデルから導かれる理論的な生存関数S(t)をグラフとして描くことができないということです。 そしてそれはモデルと実際の累積生存率曲線の適合度を理論的に評価できないという大きな欠点になります。 つまり共変数の値を持つ多くの被験者が死亡する順序を予測したとしても、その予測の精度を理論的に評価できないのです。
多変量生命表解析はハザードに対する共変数の影響を検討することと、特定の共変数の値を持つ被験者の予後を予測することが主な目的です。 ところがこの手法はハザードに対する共変数の影響を近似的に求めたり、色々な被験者が死亡する順序を予測したりはできますが、その予測の精度は評価できません。 これは生命表解析手法としては大きな欠点です。
しかしこの欠点を逆手に取ると、たとえモデルと実際の累積生存率曲線がうまく適合していなくても、そのことを視覚的にも数値的にも評価できないので結果についてあれこれツッコミを入れられず、ゴマカシがききます。 そのせいか現在の医学界では、第6節で説明するパラメトリック生命表解析よりもこの手法の方が多用されています。 これは実に困ったことです…! p(~~;) (→11.6 パラメトリック生命表解析)
比例ハザードモデルでは、共変数と生存関数 S(t|x1,…,xp) の間に次のような関係があります。
基準生存関数(baseline survival function)S0(t)は、原理的には全ての共変数の値が0の時の生存関数です。 しかしS0(t)を求めるのは難しいので、実際のデータでは共変数を無視した時の累積生存率曲線をカプラン・マイヤー法によって求め、それを便宜的にS0(t)と考えます。 このS0(t)は全ての共変数が平均値の時の生存関数に相当するので、その時の対数ハザード比ηが0になるように切片β0を調整します。
上記の関係から、共変数に任意の値を入れた時の仮想的な累積生存率曲線を計算してグラフを描くことができます。 その仮想的な累積生存率曲線は図11.4.1の赤色の累積生存率曲線と青色の累積生存率曲線のようになります。 これらのグラフは t = 0 の時の値が 1 で、それ以後は基準生存関数S0(t)つまり累積生存率曲線を平行移動したような形になることがわかると思います。
比例ハザードモデルは重回帰型ですから、偏回帰係数βjは他の共変数が一定で共変数xjだけが 1 増加した時に対数ハザード比がいくつ変化するかを表す値つまり対数ハザード比の変化量になります。 そして対数ハザード比の変化量を指数変換して元のハザード比単位に戻すとハザード比の比になります。
この場合のハザード比は基準ハザード関数λ0(t)に対する共変数が特定の値の時ハザードλj0(t)の比です。 しがってハザード比の比は上記のように λj1(t)/λj0(t) になり、他の共変数が一定で共変数xjだけが 1 増加した時にハザードが相対的に何倍になるかを表すハザード比になります。 そのためこのハザード比を、他の共変数の影響を取り除いた補正ハザード比(調整ハザード比)と呼ぶことがあります。
比例ハザードモデルは一般化線形モデルの一種であり、対数ハザード比の回帰誤差が特殊な分布になります。 そこで回帰誤差が近似的に正規分布すると仮定して、重回帰分析と同じように最小2乗法を利用して回帰分析を行う方法が考えられます。
しかし普通は、ロジスティック回帰分析と同様に最尤法を利用した繰り返し近似計算によって回帰分析を行います。 ただし最尤法を正確に適用するためには基準ハザード関数λ0(t)を具体的に規定する必要があります。 そこで実際の計算では基準ハザード関数λ0(t)を無視して最尤解を近似計算するかなり精度の低い近似手法を用います。
例えば表11.3.1のデータに比例ハザードモデルを当てはめ、最尤法を利用して解を求めると次のようになります。 (注1)
また観察期間と転帰のデータを用いて、カプラン・マイヤー法によって生命表を求めると次のようになります。
| 症例番号 | 生存期間(転帰) | 生存数/観察数 | 累積生存率 | 累積生存率の標準誤差 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 1 | 69/70 | 0.986 | 0.014 |
| 2 | 2 | 68/69 | 0.971 | 0.020 |
| 3 | 2 | 67/68 | 0.957 | 0.024 |
| 4 | 3 | 66/67 | 0.943 | 0.028 |
| 5 | 3 | 65/66 | 0.929 | 0.031 |
| 6 | 3 | 64/65 | 0.914 | 0.033 |
| 37 | 3 | 63/64 | 0.9 | 0.036 |
| 7 | 4 | 62/63 | 0.886 | 0.038 |
| 8 | 4 | 61/62 | 0.871 | 0.040 |
| 9 | 4 | 60/61 | 0.857 | 0.042 |
| 38 | 4 | 59/60 | 0.843 | 0.043 |
| 10 | 5 | 58/59 | 0.829 | 0.045 |
| 11 | 5 | 57/58 | 0.814 | 0.046 |
| 12 | 5 | 56/57 | 0.8 | 0.048 |
| 13 | 5 | 55/56 | 0.786 | 0.049 |
| 39 | 5 | 54/55 | 0.771 | 0.050 |
| 40 | 5 | 53/54 | 0.757 | 0.051 |
| 14 | 6 | 52/53 | 0.743 | 0.052 |
| 41 | 7 | 51/52 | 0.729 | 0.053 |
| 15 | 8 | 50/51 | 0.714 | 0.054 |
| 16 | 8 | 49/50 | 0.7 | 0.055 |
| 17 | 9 | 48/49 | 0.686 | 0.055 |
| 42 | 9 | 47/48 | 0.671 | 0.056 |
| 43 | 10 | 46/47 | 0.657 | 0.057 |
| 44 | 10 | 45/46 | 0.643 | 0.057 |
| 45 | 11 | 44/45 | 0.629 | 0.058 |
| 18 | 12 | 43/44 | 0.614 | 0.058 |
| 19 | 12 | 42/43 | 0.6 | 0.059 |
| 20 | 12 | 41/42 | 0.586 | 0.059 |
| 21 | 12 | 40/41 | 0.571 | 0.059 |
| 22 | 13 | 39/40 | 0.557 | 0.059 |
| 46 | 13 | 38/39 | 0.543 | 0.060 |
| 47 | 14 | 37/38 | 0.529 | 0.060 |
| 23 | 16 | 36/37 | 0.514 | 0.060 |
| 48 | 18 | 35/36 | 0.5 | 0.060 |
| 49 | 18 | 34/35 | 0.486 | 0.060 |
| 50 | 19 | 33/34 | 0.471 | 0.060 |
| 51 | 19 | 32/33 | 0.457 | 0.060 |
| 52 | 21 | 31/32 | 0.443 | 0.059 |
| 53 | 23 | 30/31 | 0.429 | 0.059 |
| 54 | 25 | 29/30 | 0.414 | 0.059 |
| 55 | 26 + | (29/29) | 0.414 | 0.059 |
| 24 | 27 | 27/28 | 0.399 | 0.059 |
| 56 | 27 | 26/27 | 0.385 | 0.058 |
| 25 | 28 | 25/26 | 0.370 | 0.058 |
| 26 | 28 | 24/25 | 0.355 | 0.057 |
| 57 | 28 | 23/24 | 0.340 | 0.057 |
| 58 | 28 + | (23/23) | 0.340 | 0.057 |
| 59 | 30 | 21/22 | 0.325 | 0.056 |
| 27 | 31 | 20/21 | 0.309 | 0.056 |
| 60 | 32 | 19/20 | 0.294 | 0.055 |
| 28 | 32 + | (19/19) | 0.294 | 0.055 |
| 29 | 33 | 17/18 | 0.278 | 0.054 |
| 61 | 33 + | (17/17) | 0.278 | 0.054 |
| 30 | 34 | 15/16 | 0.260 | 0.054 |
| 31 | 35 + | (15/15) | 0.260 | 0.054 |
| 62 | 35 + | (14/14) | 0.260 | 0.054 |
| 32 | 36 + | (13/13) | 0.260 | 0.054 |
| 63 | 37 | 11/12 | 0.239 | 0.053 |
| 33 | 44 + | (11/11) | 0.239 | 0.053 |
| 64 | 49 | 9/10 | 0.215 | 0.053 |
| 65 | 52 + | (9/9) | 0.215 | 0.053 |
| 66 | 54 | 7/8 | 0.188 | 0.053 |
| 34 | 54 + | (7/7) | 0.188 | 0.053 |
| 35 | 55 | 5/6 | 0.157 | 0.052 |
| 67 | 56 | 4/5 | 0.125 | 0.050 |
| 36 | 56 + | (4/4) | 0.125 | 0.050 |
| 68 | 58 + | (3/3) | 0.125 | 0.050 |
| 69 | 59 + | (2/2) | 0.125 | 0.050 |
| 70 | 60 + | (1/1) | 0.125 | 0.050 |
この生命表中の生存期間と累積生存率をプロットしたものが累積生存率曲線になり、それを便宜的に基準生存関数S0(t)と考えます。 そしてS0(t)を利用すれば、共変数が任意の値の時の仮想的な累積生存曲線を求めることができます。 例えば重症度が軽症で、治療が無い時と有る時の仮想的な累積生存曲線は次のようになり、それらをグラフ化すると図11.4.1のようになります。 なお図11.4.1のグラフでは仮想的な累積生存曲線には脱落例をプロットしてありません。
この場合のx1とx2のハザード比はそれぞれ次のようになります。 そしてロジティック回帰分析と同様に、最尤法による解が漸近的に正規分布するという性質を利用して偏回帰係数が0かどうかの検定、つまりハザード比が1かどうかの検定と推定を行うことができます。 ただし多変量生命表解析は記述統計学的手法なので推測統計学的手法である検定とは相性が悪く、ほとんどの場合は統計的仮説検定ではなく単なる有意性検定になります。
比例ハザードモデルは対数ハザード比と共変数の重回帰式ですから、重回帰分析と同様に特定の共変数と対数ハザード比の偏回帰式を求めることができます。 そしてその式の両辺を指数変換すれば、特定の共変数とハザード比の偏回帰曲線を表す式になります。 例えば治療が無い時と有る時について、重症度とハザード比の偏回帰曲線を描くと図11.4.3のようになります。 (→7.2 重回帰分析結果の解釈)
上図からわかるように、ハザード比HR1が同じ0.512でも、重症度が症状なし(x2=0)と重症(x2=2)の時では治療有と治療無のハザード比の差はかなり違います。 またハザード比HR2が同じ2.085でも、症状なし(x2=0)と軽症(x2=1)のハザード比の差と軽症(x2=1)と重症(x2=2)のハザード比の差もけっこう違います。
このように、このグラフはハザード比の具体的な値とその変化の様子がよくわかると思います。 しかしこのグラフのハザード比は基準ハザードλ0に対するハザード比であり、実際のハザードの値とその変化の様子を知ることはできません。 これはハザード関数λ(t)の具体的な姿を規定しない比例ハザードモデルの限界であり、大きな欠点です。 ハザードの具体的な値とその変化の様子を知るためには、第6節で説明するパラメトリックモデルを用いる必要があります。
表11.3.1の重症度を無視し、治療の有無についてコックス・マンテルの検定を適用すると次のようになります。 (注2)
この結果と比例ハザードモデルによる結果を比べると、重症度の影響を補正すると治療の有無のハザード比が1からより離れる、つまり治療有と治療無のハザードの差がより大きくなり、生存率の差がより大きくなることがわかります。 図11.4.2は治療の有無別に実際の累積生存率曲線を太い実線で描き、そこに比例ハザードモデルを利用して求めた仮想的累積生存率曲線を細い実線で重ねて描いたものです。 この図を見ると、重症度の影響を補正すると治療の有無の生存率の差が少し大きくなることがわかると思います。
また第1節の表11.1.1の手術法に関するコックス・マンテルの検定の結果は次のとおりでした。 (→11.2 生存率の比較方法)
そして第2節の(4) 手法間の関係で説明したように、コックス・マンテル検定は死亡時間を無視して死亡例の発生順序だけを用いて計算しています。 そのため表11.1.1のデータに適用しても、症例の時間間隔を全て1にした表11.2.3のデータに適用しても全く同じ結果になります。 さらに表11.1.1の時間間隔を間延びさせた表11.4.3のようなデータに適用しても全く同じ結果になります。
| 症例番号 | 手術法 | 観察期間(月) | 転帰 |
|---|---|---|---|
| 1 | A | 2 | 脱落 |
| 2 | A | 3 | 死亡 |
| 3 | A | 5 | 死亡 |
| 4 | A | 7 | 死亡 |
| 5 | A | 9 | 打ち切り |
| 6 | A | 20 | 死亡 |
| 7 | A | 24 | 死亡 |
| 8 | A | 36 | 打ち切り |
| 9 | A | 48 | 打ち切り |
| 10 | A | 60 | 死亡 |
| 11 | A | 72 | 打ち切り |
| 12 | A | 96 | 打ち切り |
| 13 | B | 1 | 死亡 |
| 14 | B | 2 | 死亡 |
| 15 | B | 4 | 死亡 |
| 16 | B | 6 | 死亡 |
| 17 | B | 7 | 死亡 |
| 18 | B | 8 | 打ち切り |
| 19 | B | 10 | 死亡 |
| 20 | B | 12 | 脱落 |
| 21 | B | 18 | 死亡 |
| 22 | B | 48 | 死亡 |
それと同様に比例ハザードモデルも死亡時間を無視して死亡例の発生順序だけを用いたモデルなので、表11.1.1のデータに適用しても表11.2.3のデータに適用しても表11.4.3のデータに適用しても全く同じ結果になります。
ところが第6節で説明するパラメトリックモデルを用いると、次のように表11.1.1のデータと表11.2.3のデータと表11.4.3のデータでは結果が異なります。 この結果をグラフにすると図11.6.1と図11.6.2と図11.4.4のようになります。 グラフ中の折れ線は累積生存率曲線であり、曲線はそれを指数関数で近似した理論的生存関数です。
図11.6.1では2本の累積生存率曲線が時間の経過とともに離れているので、それを指数関数で近似した2本の指数関数の間隔が少し広くて、ハザード比が2.756になっています。 それに対して図11.6.2では最後のところで2本の累積生存率曲線の間隔が少し狭くなっているので、それを指数関数で近似した2本の指数関数の間隔が少し狭くて、ハザード比が2.390と少し小さくなっています。 また図11.4.4では2本の累積生存率曲線の間隔がかなり広くなっているので、それを指数関数で近似した2本の指数関数の間隔がかなり広くて、ハザード比が4.391とかなり大きくなっています。
ところがこれら3種類のデータに比例ハザードモデルを適用すると非合理なことに全く同じ結果になり、ハザード比は全て3.377になるのです。 しかも比例ハザードモデルはハザード関数の具体的な姿を定義しないので、パラメトリックモデルと違って理論的生存曲線を描けません。 そのためモデルと実際の累積生存率曲線の適合度が良いか悪いかを判断できないのです。 これは累積生存率曲線のモデルとしては致命的な欠点です。
また比例ハザードモデルはコックス・マンテル検定を多変量に拡張したものです。 そのため理論的にはコックス・マンテル検定の結果と比例ハザードモデルの結果は一致するはずです。 しかし比例ハザードモデルはハザード関数の具体的な姿を規定しないので、最尤解を求める時も苦し紛れに精度の低い近似計算を用いています。 そのため両者の結果は微妙に異なり、上記のようにコックス・マンテル検定のハザード比が3.697であるのに対して比例ハザードモデルのハザード比は3.377になり、少し異なっています。
以上のように、比例ハザードモデルによる重回帰型生命表解析は死亡例の順序だけを用いる精度の低いノンパラメトリック手法なので、死亡例の時間間隔が異なっていても結果は全く変わらず、しかも精度の低い近似計算を行うので結果の信頼性はかなり低くなります。 それに対してパラメトリック生命表解析は累積生存率曲線を近似する精度の高いモデルであり、近似計算ではなく正確な計算法を用いるので結果の信頼性が高くなります。 そのため信頼性の低い比例ハザードモデルによる重回帰型生命表解析よりも信頼性の高いパラメトリック生命表解析を用いるべきです。 (注3) (→11.6 パラメトリック生命表解析)
ちなみに比例ハザードモデルは理論的生存関数を求められないので、本来は累積生存率曲線のグラフを描く意味はありません。 でもどうしても描きたいのなら、時間間隔を1にした図11.6.2のようなグラフを描くべきです。 もし図11.6.1や図11.4.4のようなグラフを描いたのなら、パラメトリックモデルを適用しなければ整合性が取れません。
| 共変数 | 観測期間 | 転帰 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| x11 | … | x1j | … | x1p | t1 | d1 |
| : | : | : | : | : | ||
| xi1 | … | xij | … | xip | ti | di |
| : | : | : | : | : | ||
| xn1 | … | xnj | … | xnp | tn | dn |
回帰誤差εiが正規分布すると仮定せず、最尤法によってβの最尤推定値bを求めます。
この式を解くにはλ0(t)を規定する必要があります。 そこでコックスはこの式を直接用いず、λ0(t)を任意の負ではない局外関数としたままbを近似的に推定する手法を提唱しました。 まず上記の尤度関数をλ0(t)を含む部分と含まない部分に分けます。 そしてλ0(t)を含む部分がbの推定に与える影響は少ないと強引に仮定して、λ0(t)を含まない部分だけで尤度を計算します。 これを部分尤度(partial likelihood)といい、次のように表されます。
実際のデータには同時死亡例または同時脱落例があるので、それを考慮したブレスロー・ペトの近似方法(Breslow-Peto approximation method)によって部分尤度を計算します。
この対数部分尤度関数にニュートン・ラプソン法を適用すると次のようになります。 (→10.3 ロジスティック回帰分析の計算方法 (注2))
偏回帰係数が 0 かどうかの検定つまりハザード比が 1 かどうかの検定は、最尤推定値の漸近的正規性を利用したワルドの検定によって行います。
またロジスティック回帰分析と同様に、共変数がない時の尤度つまり偏回帰係数が全て0の時の尤度と、共変数がp個の時の尤度の比を利用した尤度比検定によって共変数全体の回帰の検定を行うことができます。 (→10.3 ロジスティック回帰分析の計算方法 (注2))
一般的な方法では偏回帰係数の初期値b0は全て0にします。 しかし次のような方法で求めることもできます。 第3節で説明したように、ハザード関数λ(t)が時間とは無関係に一定とすると生存関数S(t)は指数関数になります。 そしてその時、個体の理論的な生存時間は∞です。 そこで現実的にはS(t)が非常に小さな値eになった時に死亡すると仮定すると、生存時間tとハザードモデルの間には次のような関係があります。
ln(t0)は基準ハザード関数の生存時間に相当するので、共変数を無視した時の対数変換した生存時間の平均値になります。 そのため上記のモデルは対数変換した生存時間 ln(t) を目的変数にし、切片を少し修正した重回帰モデルになります。 したがって対数変換した生存時間を目的変数にした重回帰分析を行い、その時の偏回帰係数の符号を反対にしたものを初期値b0にすることができます。
表11.3.1のデータについて実際に計算してみましょう。 まず観察期間を対数変換したものを目的変数にし、治療の有無と重症度を説明変数にした重回帰分析を行うと次のようになります。
この重回帰式における偏回帰係数の符号を反対にしたものを比例ハザードモデルにおける偏回帰係数の初期値にします。 比例ハザードモデルの切片は全ての共変数に平均値を代入した時の対数ハザード比が0になるように調整します。 そのため偏回帰係数だけをニュートン・ラプソン法で推測します。
更新されたb1を用いて同様の計算を繰り返すと、3回目で値が収束します。 そしてこの偏回帰係数と、x1の平均値0.485714とx2の平均値1.01429から切片b03を求めます。 またH3-1の対角要素を利用して偏回帰係数の検定を行うことができます。
以上のように、この場合の回帰係数b1はコックス・マンテル検定におけるコックスのβと一致し、回帰係数の検定は連続修正をしないコックス・マンテル検定と一致します。 (→11.2 生存率の比較方法 (注1))
表11.3.1の治療の有無に比例ハザードモデルを適用し、b1の初期値を 0 としてニュートン・ラプソン法を1回だけ行った結果と、連続修正をしないコックス・マンテル検定を適用した結果は次のように一致します。 しかしニュートン・ラプソン法を収束するまで行うと、比例ハザードモデルの結果はわずかに異なったものになります。 部分尤度法による最尤法は苦し紛れの近似計算なので最尤解から少しずれた解に収束してしまうのです。 この近似計算の精度の悪さも比例ハザードモデルの欠点の1つです。
そこで予後予測の精度を表す指標としてC統計量(C-index、Concordance index)という値が提唱されています(Harrell et al、1996)。 これはモデルから予測される生存時間と実際の生存時間の大小関係がどの程度一致しているかを表すノンパラメトリックな指標であり、両者の順位一致係数に相当します。 C統計量は次のように定義されています。
上記のようにi番目のデータとj番目のデータを比較して一致スコアを付け、それを全てのデータについて合計した値がC統計量です。 コックスの比例ハザードモデルの場合、生存時間を予測する関数f(ti)の代わりに対数ハザード比関数η(ti)を用いると便利です。 ただし対数ハザード比関数を用いると対数ハザードの大小関係が生存時間の大小関係とは反対になるので注意が必要です。
C統計量は順位一致係数ですから、ケンドールの一致係数W(Kendall's coefficient of concordance)と同じように解釈できます。
つまりモデルから予測される生存時間の順番と実際の生存時間の順番が完全に一致している時は 1 になり、両者の順番が完全に正反対の時は 0 になり、偶然の一致程度の一致の時は 0.5 になります。
(→5.4 級内相関係数と一致係数)
C統計量をロジスティック回帰分析に適用することもできます。 その場合、生存時間の代わりにイベントの有無を一致の指標にします。 つまりモデルから予測されるイベント発生確率の大小関係と、実際のイベント発生率の大小関係(発生 = 1 > 非発生 = 0)がどの程度一致しているかを表す値がC統計量になります。 すると上記の定義から、実際のイベント発生率が同じデータは計算から除外され、イベント発生例とイベント非発生例の間の比較結果だけを合計することになります。
そのためC統計量はイベント発生例とイベント非発生例の間で、モデルから予測されるイベント発生確率の大小関係を総当りで比較し、イベント発生例のイベント発生確率が大きい時に「一致(1)」として一致率を求めた値になります。 これはマン・ホイットニィのU検定におけるU値、つまり2群の間で値の大小関係を比較し、値が大きい方を勝ち(Upper)とした時の勝ち数を比較回数で割って勝率にしたものと同じ値になります。
そしてこの勝率はROC分析におけるROC曲線のAUC(曲線下面積)に相当します。
したがってロジスティック回帰分析にC統計量を適用すると、C統計量はイベント発生群とイベント非発生群のロジットスコア(対数オッズ比)についてROC曲線を描いた時のAUCに相当することになります。
(→9.2 群の判別と診断率 (注4))
寄与率はモデルから予測される値と実際の値の計量的な一致度を表します。 それに対してC統計量はモデルから予測される生存時間と実際の生存時間の順序が一致している程度を表します。 そのため寄与率が 1(100%) なら予測値と実際の値がぴったり一致しているのに対して、C統計量が 1 になっても予測値と実際の値の順序が一致しているだけで値までぴったり一致しているとは限りません。
そのためC統計量は予測精度を表す指標としては寄与率ほど良い指標ではありません。 でも比例ハザードモデルは擬似寄与率を求めることができないので、致し方なく予測精度を検討するための参考として用いることがあるようです。
これに対して第6節で説明するパラメトリック生命表解析は厳密な最尤法を用いるので、疑似寄与率を求めることができます。 また第7節で説明するように、モデルから求めた生存時間と実際の生存時間の一致度を求めることもできます。 そのため苦し紛れの部分最尤法に基づいた比例ハザードモデルを用い、しかもあまり良い指標ではないC統計量を用いるよりも、厳密な最尤法に基づいたパラメトリック生命表解析と疑似寄与率や生存時間の一致度を用いる方が合理的です。
(注1)で求めた比例ハザードモデルについてC統計量を求めてみましょう。
このモデルから求めた対数ハザード比yをハザードスコアとすると、この値は生存時間と反比例する値になります。 そこでこの値を表11.3.1の全ての症例について計算し、C統計量を求めると次のようになります。
ちなみに、表11.3.1に指数分布モデルによるパラメトリック生命表解析を適用した時の疑似寄与率と一致度は次のようになります。 (→11.7 比例ハザード性)
多変量予測モデルの予測能力の増加を評価する指標として、NRI(Net Reclassification Improvement)とIDI(Integrated Discrimination Improvement)という値が提唱されています。 そしてこれらの指標を生存時間解析やロジスティック回帰分析で用いる時があります。 しかしこれらの指標は判別分析のような後ろ向き研究用なので、前向き研究用の手法である生存時間解析やロジスティック回帰分析で用いるのは非合理です。 またこれらの指標はオーソドックスな指標――例えば寄与率や偏回帰係数――と比べるとあまり良い指標ではありません。 (→9.5 変数の選択 (注2))